2012年4月12日木曜日

ソーシャルコマースの可能性は?-Eコマースの変遷から読み解く(4)

大変長い記事であるため、複数回に分けてお送りしています。


前回、今後のEコマースの方向性として、次の4つの点について言及しました。

  1. Eコマースのメリットを充実させる仕組み
  2. Eコマースの欠点を補う仕組み
  3. コンテキスト消費を促す仕組み(オウンドメディア)
  4. コンテキスト消費を促す仕組み(ソーシャルコマース)
3と4のコンテキスト消費とは何か?-これについては説明が長くなるので、また次回として、今回は1と2について考察していきます。

1.Eコマースのメリットを充実させる仕組み

Eコマースのメリットをさらに充実させて、Eコマースの拡大を目指す方向性です。たとえば、「価格」や「検索性」などがあげられるでしょう。

「価格」の取り組みでは、招待制ブランド品セールのGILTが目をひきます。

月9の視聴率も落とす!? 招待制ブランド品セール「ギルト」の魅力とは(2009年11月26日)
キーワードは「知人からの招待制」「正規流通のブランド品」「最大70%OFF」。月曜だけではなくほぼ毎日21時からぴったり54時間セールが行われるが、カートにキープできる時間は10分だけ(チェックアウトしないと取り消される)。たいてい2時間で売り切れ、残っているのはXSかXLのサイズだけになるが、やがてそれもなくなる。
安さの秘密は、アパレルブランド側が何らかの理由で売りさばきたいものを直接買い付けしているから。いわゆる「わけあり」なのです。

「わけあり」には、楽天も目を付けています。

“楽天市場は少なくとも今の倍以上に成長する”国内最大手が見据えるこれからのEC(2010年4月19日)
例えば、“訳あり”商品の人気に火が付いているが、藤田氏は「理由も無く安いのは不安。“訳あり”は安い訳がないと売れない」と見ている。その点、ECは安い訳を店頭よりもじっくりと説明できるメリットがある。これまではテキストと画像だけだったが、動画も使うことができるようになり、商品説明という点でのECの優位性はさらに増すと見込んでいる
そのほかにも、くまポンやグルーポンなどのフラッシュマーケティングなど、価格を武器にEコマースを拡大する仕組みは検討に値します。

「価格」以外では、「検索性」も利便性を向上しする一つの手段です。たとえば、ZOZOタウンでは、

日経新聞2011年1月17日朝刊
千葉県習志野市にある約2万平方メートルの物流拠点の一角で、1点ずつ身に着けたモデルを社員カメラマンが撮影する。襟の形のアップなど10回ほどアングルを変える。サイトでは婦人靴ならヒールの高さから検索できるなど、かゆいところに手が届くサービスを盛り込んだ。
とあるように、「実際に自分の目で確かめられないから」「試着ができないから」ネットで洋服や靴は買えないという常識を、「検索性」を高めることで逆に覆し、検索できるからこそブランド横断で自分の欲しいものを探せるという強みに変えています。

このように、従来からEコマースの強みとされてきた特徴をさらに拡充し、利用者のリテンションを実現してEコマースを拡大していくことができるのではないでしょうか。

2.Eコマースの欠点を補う仕組み

Eコマースの欠点として、「実際に自分の目で見て確かめられない」「今すぐ使いたいのに手に入らない」というものがあげられます。これを解決することで、Eコマースを進化させるのが2つ目の方向性です。つまり、真の意味でのクリック&モルタルの実現です。

クリック&モルタルはすでにご承知のこととは思いますが、念のため書き添えますと、「実店舗とEコマースの両方で事業を行う」形態のビジネスです。たとえば、ビックカメラは実店舗を持ちながら、ネットショッピングも運営しています。とはいいつつも、オンラインでの売り上げは全売り上げの5%程度(記事参照)ということですから、ほとんどが実店舗のビジネスで成立していることになります。

ではなぜ、実店舗のビジネスをEコマースに取り込むことが重要なのでしょうか。

経済産業省が発表している電子商取引に関する調査報告では、2010年のEC化率(全商取引を分母としてEコマースで取引された割合)は2.46%にすぎません。つまり残りの97.5%は実店舗でのビジネスで取引されているわけです。Eコマースを拡大するにあたり、パイの大きな部分に手を付けていかざるをえないでしょう。

実際、Yahoo!やGoogleも、実店舗とインターネットを結び付ける方向性を示しています。

実店舗の商品を検索できる Google ローカルショッピング開始(2011年9月16日)
商品名を検索すると、付近の取り扱い店舗と価格が表示され、営業時間や店舗までのルートなどもそのまま調べることができます。iPhone / Android からの利用も可能。ちかごろは実店舗で品定めをして、ネットで価格を調べ買うというような購買行動も見られますが、これからはネットで調べて安い実店舗へ向かうというような行動も生まれるかもしれません。
まだまだはじまったばかりの取り組みですし、プラットフォーム側(Yahoo!やGoogle)がどのように出るのかわからないので、吉と出るか凶と出るかも判断しかねるのですが、クリック&モルタル戦略を実現して一躍存在感を増やす企業が出てもおかしくない状況と言えます。

余談ですが、米国の調査で、とモバイルで事前調査をした人の72%がワイヤレス機器を店頭で買っている(モバイル以外は55%)とのこと(記事参照)。ここからも、ネットで調べて実店舗で買う、という消費行動があることがうかがえます。

長くなってきましたので、今日はここまで。

ソーシャルコマースの可能性は?-Eコマースの変遷から読み解く(3)

大変長い記事であるため、複数回に分けてお送りしています。





EC洗練期・モバイルコマース勃興期が意味するもの

Eコマース市場が成熟化し、ビジネスモデル自体の洗練化が進んだこの時期。実は、ゼイヴェル(2008年に)の取り組みは、次のステージへの幕開けを告げるものでもありました。それは、それまでのECで購入されるものは「指名買い」「日用品」でしたが、ゼイヴェルは「ファッション」を売った、ということです。

「指名買い」では、ユーザーはすでに自分が何を欲しいのかを知っていました。「日用品」では、銘柄を指定することはなくても、何を必要としているのかはわかっていました。一番安い何か、一番売れている何かを買えば、ユーザーは満足していたのです。ところが「ファッション」は「センス」が売りのビジネスです。ユーザー自身が、「リーバイスの903が欲しい」と指名買いすることはめったにありませんし、ジーパンが欲しいからと言って、一番安い何か、一番売れている何かを買えば満足するというものでもありません。「ファッション」を売るとは、自分に似合うものは何かを探し当ててもらうこと、ひいては自分がどんなふうになりたいのかというイメージを売ることなのです。

Amazonや楽天のユーザーインターフェースでは、それを実現することはとても難しい。そこで出てくるのが、「クロスメディア」というキーワードです。インターネットというメディアと、雑誌、テレビ、ファッションショーなどのイベント、実店舗を持つアパレルブランド等の既存メディアを融合させる仕組み。それがクロスメディアのEコマースです。

クロスメディアで使用される媒体は、既存のメディアです。その特徴は、

  1. 「個」をターゲットとするインターネットと異なり、ある程度のマスを相手にしている
  2. パーソナライズを基本とするインターネットと異なり、それを見る人・そこを訪れる人に同じ体験(Look&Feel)を与える
  3. 断片的なコンテンツが浮遊するインターネットと異なり、ストーリー/文脈を持っている
というものです。

これらの要素を包含しているからこそ、流行が生まれる。流行があるからこそ、その流行の中に、なりたい自分の姿を描くことができる。なりたい自分の姿をそこに見ることができるから、それを実現するために商品を買う。流行とは、人の欲求を引き出し、それを購入すべきだと確信させる購買決定要因なのです。

既存のメディアは商品の検索や決済の機能はありません。逆にE従来のEコマースでは、流行を生み出すことができませんでした。Eコマースへのクロスメディア導入は、今まで売ることのできなかった「イメージ」や「センス」を売ることを可能にしたという点で画期的な事例であったといえます。

しかし、「イメージ」や「センス」を売ることは、クロスメディアの専売特許ではありません。何が欲しいのかわからないけれど、欲しいという欲求を起こさせる仕組みは、実はほかにもあります。それこそが、スマートフォンとソーシャルメディアが作り出す、ストーリー/文脈の中での消費、つまりソーシャルコマースです。

スマホ・ソーシャル時代

ここまで考察してきたように、Eコマースは成熟しています。そんな時代にあって、Eコマースは今後どんな可能性を取りうるのでしょうか。私は、次の4つの可能性を提言します。

  1. Eコマースのメリットを充実させる仕組み
  2. Eコマースの欠点を補う仕組み
  3. コンテキスト消費を促す仕組み(オウンドメディア)
  4. コンテキスト消費を促す仕組み(ソーシャルコマース)
詳しい説明は、また後日。

ソーシャルコマースの可能性は?-Eコマースの変遷から読み解く(2)

大変長い記事であるため、複数回に分けてお送りしています。前回の記事はこちら





EC洗練期

2000年代後半、Eコマースはさらに洗練されていきます。Eコマース事業者側も価格競争での消耗を避けるため、利便性を向上することで、Eコマースに付加価値を与える取り組みを始めました。それが、「商品のお届け日の短縮」「送料無料」という点です。

富士通総研の調査レポート「インターネットショッピング2010」によると、利用したネットショップのタイプと選んだ理由の1位は価格、2位は送料・配送条件、3位はポイント・特典等という順番でした。

EC市場の現状とECへの取り組みのポイント(2)~アマゾン・楽天2強時代と大手小売の挑戦~(富士通総研ホームページコラム2011年4月12日)

商品のお届け日の短縮化は、利便性向上の顕著な例です。もともと、Eコマースは「いま欲しいに応えられない」という特性をもっています。その欠点を改善するべく、Amazonは早くから物流の効率化を進めていました。2005年には千葉県市川市、2007年には千葉県八千代市、2009年には大阪府堺市、2010年には埼玉県川越市に、それぞれ次々と物流倉庫を整備しました。これにより、今オーダーすれば明日届く、「欲しいときに手にする」にほぼ近い消費体験を実現することができるようになったのです。物流への取り組みは、楽天も2008年から佐川急便と組んで「あす楽」というサービスを行っています。

また、送料という点で見てみると、Amazonはもともと購入金額1,500円以上で送料無料としていたのを、2010年に完全無料化しています。これに対応するように、楽天も同年、楽天Booksの送料を完全無料化しました。いまや、消費者にとって、送料は無料が当たり前の時代なのです。

「商品のお届け日の短縮」「送料無料」のような物流の効率化による、ユーザーの利便性の向上は、当然のことですが規模の経済が働かない限り実現は困難です。実際、前掲の富士通総研の調査レポート「インターネットショッピング2010」で、利用したサイトのタイプ(直近1回)について尋ねたところ、楽天(42.2%)とAmazon(14.1%)で過半数を占め、楽天とAmazonの2強時代であると分析されています。Eコマースの洗練化は、市場の成熟化、寡占化と表裏一体であるといえます。

では、もはや新規参入の道は残されていないのでしょうか。これについては、もう少し後で考察していきたいと思います。

モバイルコマース勃興期

2005年前後から、インターネットの主戦場はパソコンだけではなくなります。i-modeの普及、携帯画面のカラー化、ユーザーの成熟によって、モバイルコマースが台頭し始めました。拍車をかけたのは、デジタルネイティブと呼ばれる、生まれて物心ついた時にはインターネットを使っている世代が、消費をし始める年代になったということです。デジタルネイティブのユーザーは、パソコンを立ち上げることですら面倒くさい。消費すら、携帯の画面上で十分なのです。

このことを象徴的に表すビジネスが、ゼイヴェル(2008年ブランディングに社名変更)のEコマース事業です。ゼイヴェルという会社名を知らなくても、「東京ガールズコレクション」という名前を聞いたことがある人はいるかもしれません。

少し古い記事ですが、東京ガールズコレクションとモバイルコマースについて触れた記事がありました。

東京ガールズコレクションでモバイル通販体験 ゼイヴェルが仕掛ける「クリック&イベント」戦略(2007年2月16日)
東京ガールズコレクションの最大の特徴は、蛯原友里や押切もえ、土屋アンナといった人気モデルが当日着た服を、その場にいながらにして携帯電話の通販サイトから購入できることだ。ファッションショーと携帯電話を組み合わせた「クリック&イベント」とでも呼ぶべき、新しいEC(電子商取引)の形態として注目されている。
ゼイヴェルの直近の売上高は残念ながら見つけることはできませんでしたが、2008年3月期で170億円ほどあると推測され(記事参照)バカにすることができないビジネスだといえます。

追い風をかけるように、2007年にiPhoneが発売され、次いでAndroid携帯も含めたスマートフォンが市場を席巻します。携帯の手軽さと、パソコンのようなコンテンツの表現力を兼ね備えたスマートフォンは、モバイルコマースをさらに加速させたことは言うまでもありません

本日はここまで。

ソーシャルコマースの可能性は?-Eコマースの変遷から読み解く(1)

4月10日付のあるサイトの記事で、2015年にはソーシャルコマースの世界市場規模が2.5兆円になるというリサーチ結果を紹介していました。(もともとはROAHoldingsが2011年2月に発表したリサーチをもとにしたもののようです)

ECの未来はソーシャルに(東京IT新聞2012年4月10日)

FacebookやTwiteerといったソーシャルメディアをECに活用する「ソーシャルコマース」(2面右下に用語解説)が拡大しそうだ。日本では先月、国内最大のSNSを展開するミクシィがDeNAと共同で「mixiモール」を開始。Facebookを通じたEC展開も国内企業から各種ツールが相次いで提供されるなど、盛んとなる一方だ。世界市場で見ると現在は4100億円程度の規模だが、2015年には2.5兆円(300億ドル)となる予想も出ている。

一方、同じく4月10日付Yahoo!ニュース(東洋経済オンライン記事)では、ソーシャルコマースの難しさに言及する記事が掲載されていました。

ミクシィが新規参入、SNS通販は稼げるか(Yahoo!ニュース(東洋経済オンライン記事)2012年4月10日)

だが最近は、ソーシャルコマースの難しさも明らかになっている。米国ではアパレルのギャップや小売りのJCペニーなどがFB上の店を相次いで閉鎖した。ソーシャルメディアのコンサルティングを手掛けるエイベック研究所の武田隆社長は、その理由を「FBやミクシィは個人が社交する場所。企業がそこに土足で踏み込むことに抵抗感を持つユーザーは多い」と指摘する。

はじまったばかりの取り組みですので改善の余地はまだまだありそうですが、そもそもソーシャルコマースは、従来のEコマースと何が違うのでしょうか。Eコマースの変遷をたどりながら、Eコマースの本質について少し考えてみたいと思います。

大変長い記事であるため、複数回に分けてお送りいたします。



Eコマース黎明期

ダイヤルアップ回線でインターネットに接続していた時代、Eコマースは限られたユーザーに対する限定的なビジネスでした。Amazon(米国では1994年、日本では2000年事業開始)や楽天(1997年事業開始)もいまでこそ小売ビジネスで大きな存在感を示していますが、当時のEコマースはまだまだ黎明期というレベルでした。

当時のEコマースの利用者像は、インターネットユーザーそのものだったといえます。つまり、テクノロジーに詳しく、インターネットを使いこなすコアな層。また、インターネット回線の整備が大学を中心に進んだこともあり、大学関係者はインターネットに比較的慣れ親しんでいました。Eコマースは、まだビジネスとしても手探りだった状況で、当時のインターネットユーザー像である技術に詳しいマニアや大学関係者などが、店頭になかなか並んでいないような書籍やPC関連商品(ソフトウェアなど)を「指名買い」する場として発展してきました。

したがって、この時期のEコマースでは、一般のお店の店頭に並んでいないような専門的なものを取り揃えていることが成功要因でした。

Eコマース普及期

2000年前後にADSLによるブロードバンド接続が一般的になってきたことで、状況が一変します。インターネットに常時接続しておけるようになり、またユーザーインターフェースの改善、技術の進歩により、インターネットは家庭にあって当たり前のものとなります。

インターネットがリーチできる消費者のパイが広がったことで、Eコマースもより広いユーザーが利用するものとなりました。それに伴い、書籍やPC関連商品だけでなく、食品や飲料、日用雑貨といったものが購入されるようになり始めます。多くの企業がEコマースに参入し、たくさんの種類の商品が売買されるようになりました。

また、同じ2000年前後には、@cosume(1999年スタート)や価格.com(前身は1997年スタート、2000年から価格.comとしてスタート)などの口コミサイト、価格比較サイトが現れました。これらの口コミサイト、価格比較サイトは、ユーザーが情報を持ち寄って商品を横並びで比較することを可能にし、賢い消費者を誕生させることとなりました(いわゆる「プロシューマー」というもの)。また、同じ商品が複数のオンライン店舗で販売されているため、消費者は価格を比較して1円でも安いものを買うという消費行動をとるのが当たり前になりました。

このような状況下では、(1)できるだけ安い価格を提示すること、あるいは(2)価格競争を避けるために品ぞろえに工夫を凝らすこと(独占的に扱える商品を持つ、あるいは他が扱っていない商品を探し出して流行らせる)が重要な成功要因となりました。さらに、(3)集客や顧客のリテンションのためにDM等を使ったプロモーションを実施したり、(4)一人あたりの購入単価を上げるために顧客の情報をパーソナライズしレコメンデーションを表示する、などのプロモーション面での努力が必要とされるようになりました。

本日はここまで。

2012年4月11日水曜日

情報の「キュレーション」をうまく活用する

先日、レコメンデーションエンジンの限界とライフスタイル提案型ECの可能性という記事の中で、(一部で流行っている)「キュレーション」という言葉について触れました。

「キュレーション」とは、もともとは博物館や美術館等の施設において、収蔵品を鑑定、分類し、収集することを指します。しかし、昨今ネット上で使われる際の「キュレーション」という言葉は、正確には「デジタル・キュレーション」のことで、ネット上の情報を収集し、交通整理をして他の人に再配布する行為のことを指しています。

この行為の重要な点は、有名人ではなくとも、ある道について専門の知識を持った「普通の人」が、自分の知識を活かしてその恩恵を他の人に提供することができるという点です。

ここでいう知識とは、「ある分野に関する体系化された網羅的な情報群」ではなく、「情報に重軽や優先順位をつけたり、(一見何のつながりがないように見えても)情報間につながりを持たせ、その分野の本質をつかむための情報群」です。

本当にその道を極めるのでなければ、体系化された網羅的な情報は不要です。そもそも、人類が重ねてきた歴史を考えれば、どんなに分野を限定しても網羅することは不可能でしょう。しかし、武道を極めたい人が禅の精神を理解したいと願ったり、ビジネスを成功させたいと思う人が人生の指針として思想家の考え方を学びたいと考えるのは自然なことです。そのときに必要なのは、体系化された網羅的な情報ではなく、その分野の本質をつかむための情報です。

そういった意味で、ネット上に氾濫する情報を効率的に吸収するために、誰かがキュレートした情報を選別することは理にかなっています。

さらに言えば、「キュレーション」は情報の選別だけでなく、ビジネスの可能性を秘めています。

たとえば、下記に示す、糸井重里氏の「本のコンシェルジュ」い関する連続ツイートはその一例と言えるでしょう。「キュレーション」をどうビジネスに活かすかについては、もう少し詳しく考えたいので、またの機会に書きたいと思います。

2012年4月6日金曜日

「ひととなり消費」が必要とされる理由

昨日のポストで、「ひととなり消費」という言葉を使いました。一言でいえば、「その人が好きだから、信頼できるから、おススメの商品を買う消費スタイル」です。

私が「ひととなり消費」が必要になると考える理由は2つあります。

一つ目は、人々が選ぶことに疲れている、という点です。 日経ビジネスオンラインで、ダイソーの矢野博丈社長が次のように述べているのが印象的でした。

引用元:
「潰れる恐怖から店をオシャレにしました」 ザ・ダイソー矢野社長の“進化”(2012/4/3)
近年は、お客様は本当に変わられました。コンビニ現象とでも言うのですかね、今のお客様は、思ったものを思ったところでパッと買いたいのです。100円ショップは、アイテムをたくさん揃えて、宝探しのような楽しさを強調していましたが、今のお客様は、それが面倒臭いのです。選ぶ面倒臭さが、波のように押し寄せてきている。
情報の多様さ、商品・サービスの豊富さが、選択を難しくさせているのです。日常生活のピンからキリまで、どの瞬間にも判断と選択を求められる現代にあって、判断や選択は、自由や権利ではなく義務なのです。義務であれば、消費における判断と選択を、自分とセンスの近い人にゆだねてしまえば楽になる。そのような心理が働くのは想像に難くありません。

二つ目の理由は、「欲しいものがないから消費しないだけで、消費する理由があれば消費する余力はある」という点です。 たとえば、旅行。若者の旅行離れが報じられていますが、本当に若者が旅行したくなくなったのか。それは違います。もっと面白いものが旅行以外にあるから、旅行に行かなくなっているだけです。

引用元:
ツーリズム・マーケティング研究所レポート
「戦後60年のライフスタイル・価値観の変化と今後の旅行の行方」(2012/3)
かつて「旅行」は、誰もが得たいと思う夢の一つであり、他の消費を我慢しても手に入れたいものだった。消費の成熟化とともに、横並び意識もなくなり、各自の価値観で消費は選択されるようになっている現在、旅行は行きたい人が行く時代になっている。現に海外旅行へは行く人と行かない人とに二分され、行く人はリピーター化して、行かない人は全く行かない、というのが現状である。
一部の若者にとって「旅行」という商品は、無条件の魅力を感じるものではなくなり、消費したいと思わなくなった。それが若者の旅行離れにつながっているというわけです。

欲しいものがない、だけれども消費したい。そのような人に対して、売る側ができることは、「欲しいと思わせるような商品・サービスを企画・開発すること」「魅力を最大限に訴求すること」です。前者の「欲しいと思わせるような商品・サービスを企画・開発すること」はかなり難しい。なぜならば、売り手も消費者のニーズがわからないし、消費者自身ですら何が欲しいのかわかならないからです。もちろん、アップルのように、消費者のニーズではなく自分たちが売れるはずだと信じるものを作り世に送り出すことで、マーケットを作り出していくという方法もあるでしょう。しかし、リスクも高く、かなり強い信念がなければそれを突き通すのは難しい。そこで目を向けたいのが、「魅力を最大限に訴求すること」です。

「魅力を最大限に訴求すること」は、「いまいる顧客に対して訴求すること」と「これから顧客になるかも知れない人を発見し、その人に対して訴求すること」です。そして、「ひととなり消費」がうまく作用するのは、後者の「これから顧客になるかもしれない人を発見する」場面においてなのです。「友達の友達はみな友達」式に、自分が好きな人・信頼する人がおススメする商品・サービスならば信頼できる。そのようなネットワークが自社にとって有利に働くような状態を作り上げるために、多くの人に信頼してもらっている人を育成していくことが、「ひととなり消費」を攻略する鍵です。一番コントロールしやすいのは、売り手側の人間にソーシャルネットワークを使ってもらい、自由に活動させることで顧客の歓心を得ることでしょう。しかし、口コミやレビューのセミプロや、大きなネットワークを持っている、オピニオンリーダー的な人を、自社のネットワークにつなげていく方法を検討してみる、というのも手です。

様々なソーシャルメディアが乱立し、新たな機能の追加や既存機能の変更もめまぐるしく実施されている現状。企業にとっては、ソーシャルメディアを完璧に使いこなすことは難しいかもしれません。しかし、本質的に「ひととなり消費」を押さえていくのだということを意識することで、何をすべきで何をすべきではないのかが判断しやすくなるのではないでしょうか。

2012年4月5日木曜日

好きな人を信頼して買う「ひととなり」消費

昨日のポストでは、よりよい商品に出会うための「セレンディピティ(思いがけない出会い)」を実現する手段を下記の3つのタイプに分け、今後のECの可能性を3にあるということを書きました。

  1. レコメンデーションエンジン
    • ユーザーのサイト閲覧履歴・購入履歴をもとに、計算し生成されるアルゴリズムに基づくもの。
  2. ユーザーによるおすすめの提示
    • ユーザーが、一つのテーマに沿って、様々なジャンルの中から関連する商品・サービスなどを集め、編集して提示するもの。Amazonで言えば「リスト」にあたる。ECサイトがアフィリエイトに力をいれるのは、これを目的にしているから。
  3. ECサイトによるプロデュース
    • ECサイトの運営者が、様々なジャンルの中から関連する商品・サービスなどをピックアップし、適切な関連付けを行って提示する。ライフスタイルの提案型のサイトがこれにあたる。

今日は、3に関してもう少し詳しく見ていきたいと思います。

昨日のポストでも、事業者が商品のセレクトやプレゼンテーションを行う形式の販売方法は、従来型のものを売るビジネス、たとえば百貨店などが行ってきたことであることを述べました。メディアが流行を作り出し、それに事業者が乗っかる、というビジネスモデルもあります。たとえば、雑誌で「この春はちょい甘ミリタリー」などのキャッチコピーを作り、トレンドを生み出すことで、販売につなげるというやり方です。これは、販売者と商品のセレクト・プレゼンテーションの実施者は別の事業者ではありますが、消費者ではない事業者側が、何をどんな見せ方で売るのかをコントロールしているという点で、従来型のものを売るビジネスの一形態であるということができます。

このような従来型のビジネスモデルは、流行がマスで動いている時代には大変効率の良い方法でした。流行がわかればそれに乗っかればいいだけの話ですし、流行がわからなくても「女子高生にはルーズソックス」「男性にはスポーツカー」などのように、年代や性別、住んでいるところ、ある程度の趣味嗜好などがわかれば、何をどのように売るべきかがわかったからです。

しかし、みなさんもご存じのように、時代は変化し、消費の仕方もがらっと変わりました。

  • 消費者が情報を手にし、吟味して選ぶことができるようになった
  • 無名な商品・サービスでも、ソーシャルネットワークの力で急に人気商品・サービスになりうるようになった
  • テレビへの接触時間が減る一方、携帯電話やインターネットへの接触時間が延び、一律の流行を生み出すことが難しくなった
  • 不安定な経済情勢なども手伝い、望むと望まざると関係なく、「大学→就職→結婚→住宅購入→子育て...」のような一様なライフスタイルだけが是ではなくなった
つまり、マスという消費者の塊はもはや存在していないのです。ですから、商品やサービスを売る側やマスメディアが流行を作り出し、その流行に合わせていろいろなものをセットで販売していく方法は、コストを食う割に利益の少ない、割に合わない商売になってしまったわけです。

だからと言って、商品やサービスを売る側がなにもできないわけではありません。その鍵が「ソーシャルメディアの活用」です。

先日書いた記事「ソーシャルコマースの可能性」でも述べましたが、たくさんの人が「持ってる」「欲しい」ボタンを押したから売れる、というソーシャルメディアの使い方は、あまり意味がないように思います。先ほども述べたように、もはや消費者は「みんなが持っているから欲しい」という考え方をしないからです。

そこで私がおススメしたいのが、「ひととなり消費」です。「ひととなり消費」とは私の造語で、「その人が好きで、その人がおススメしているものだから買う」という消費スタイルです。たとえば、例として少し古いですが、アメリカのマーサ・スチュワートが有名です。彼女は、料理家としてキャリアをスタートさせ、料理だけでなく、園芸やクラフト、インテリアなど様々な分野でトータルなライフスタイルを提案し、事業としています。アメリカの主婦に大変な人気があり(現在は下火のようですが)、マーサ・スチュワートという人を好きで、彼女の提案する商品を買うという消費スタイルがあったようです。

マーサ・スチュワートほどになるともはや「ひととなり」という言葉は遠くなってしまいますが、彼女の事業が成功した時期と現在とで違うのは、ソーシャルネットワークの存在です。ソーシャルネットワークがあるからこそ、普通の人が「ライフスタイルを提案する」ことができます。それも簡単に。

ただただ、ソーシャルネットワークに「自分が好きな映画や音楽やスポーツについてコメントすること」と「日々の生活の中で気付いたこと」などのコンテンツを投稿すれば、ソーシャルネットワーク上に、その人の「ひととなり」が浮かび上がります。もしかしたら、時々その人と会って話をすること以上のことを、ソーシャルネットワーク上のコンテンツが語ることもあるかもしれません。ですので、商品やサービスを売る側がやることの第一段階は、ソーシャルネットワーク上でその人の「ひととなり」を知ってもらい、自分のライフスタイルとの近さや親しみを覚えてもらうことです。そして第二段階として、そういったコンテンツの投稿を継続しつつ、商品・サービスに関するおススメを並列に表示させていくのです。

この「ひととなり消費」にさらに一ひねり加えるならば、商品・サービスを売る側が、その売り子をソーシャルネットワーク上で育て、増やしていけばおもしろいでしょう。つまり、商品・サービスの専門家である「売り手」と、情報を全く持たない「一般消費者」の間の、商品・サービスに関して知識があり消費者にとって信頼性の高い口コミやレビューを書くことができる「プロ消費者(プロシューマー)」を、売り手が育てていくというアイデアです。現在も、口コミサイトやレビューサイトで、レビューワーの格付けがされていますが、その人たちを積極的に育て、売り手の側に引き込むのです。もちろん、レビューワーは公平な立場でなければなりませんので、一般の消費者に納得してもらえる形で公平性を担保する必要がありますが。

いかがでしょうか。「ひととなり消費」

2012年4月4日水曜日

レコメンデーションエンジンの限界とライフスタイル提案型ECの可能性

昨日の記事、ソーシャルコマースの可能性でも少しふれた、パーソナライズに関してもう少し触れておきたいと思います。

個人的に、Amazonの「この商品を買った方はこちらの商品も買っています」機能について、私はあまり信用していません。

たとえば、ビジネス書を買うとしましょう。何か1冊の本を選ぶとき、たいていはその本に対するレビューの内容を判断材料にして買います。もちろん、その本の下に「この商品を見た人は以下の商品もチェックしています」といくつか同じジャンルの他の本がレコメンドされていれば、それもチェックします。うまくいけば、もっとニーズに合った本が見つかるかもしれないからです。しかし、同一ジャンルの中で何冊も買うわけではありません。同じジャンルの本を何冊も買うより、そのジャンルの中で最も自分のニーズに合った本を買いたいのです。つまり、レコメンデーションは、購買促進要因というより、よりよい本に出会うための「セレンディピティ(思いがけない出会い)」を起こすための一手段だということです。

この、よりよい商品(上記の例では本)に出会うための「セレンディピティ」を実現する手段にはいろいろな種類があります。

  1. レコメンデーションエンジン
    • ユーザーのサイト閲覧履歴・購入履歴をもとに、計算し生成されるアルゴリズムに基づくもの。
  2. ユーザーによるおすすめの提示
    • ユーザーが、一つのテーマに沿って、様々なジャンルの中から関連する商品・サービスなどを集め、編集して提示するもの。Amazonで言えば「リスト」にあたる。ECサイトがアフィリエイトに力をいれるのは、これを目的にしているから。
  3. ECサイトによるプロデュース
    • ECサイトの運営者が、様々なジャンルの中から関連する商品・サービスなどをピックアップし、適切な関連付けを行って提示する。ライフスタイルの提案型のサイトがこれにあたる。

上記の1と2は、ECの世界ではあたりまえです。

3については、実は、昔からあるマスメディア主導型の流行発信や、百貨店によるブランド・商品のマーチャンダイズの延長として、様々な企業がチャレンジしてきた分野でした。しかしコンテンツの作りこみコストや目利きのできる人材の確保、投資対効果が得られないなどの問題から、Amazonや楽天のように1・2で成功しているサイトの規模と同規模の成功には至っていません。

しかし、より確かな筋の専門家やプロに近いヘビーユーザーがおススメする商品やそのセレクトは信頼性が高い。口コミサイトに人気が集まったり、All AboutOne Topiなどのように、ネット上の情報の集積をうまく交通整理をしてくれる人が必要とされているという事実は、間違いなく3の可能性を示しているものだと考えられます。

そういう意味では、ソーシャルコマースは、1・2に、3の要素を付加する手段ものです。

「いいね!」「持ってる!」「欲しい!」などのボタンを通じて、ユーザーは無意識的にレコメンデーションに寄与しています(1)。しかも、ユーザーのタイムラインやユーザーのプロフィールページを見れば、その人がおススメしたものを一覧することもできます(2)。さらに、従来のECサイトが持っていたサイト閲覧履歴・購入履歴データと、ユーザーのライフログが結合することで、ライフスタイルの分析が可能になるでしょう。SNSの提供する機能にもよりますが、ソーシャルネットワークの文脈にうまく溶け込ませる形でライフスタイルを提案しながら商品を紹介することができるようになるかもしれません(3)。

とはいえ、私は、3を実現するには「人」の力がもっともっと必要になると考えています。技術の進歩、ソーシャルメディアの進化が、2を3に近づけ、普通の人が専門家として3を実現する可能性が高まっていると考えます。一部で話題になっている、「キュレーション」というキーワードがその核になる考え方です。「キュレーション」については、またの機会に考えたいと思います。

2012年4月3日火曜日

ソーシャルコマースの可能性

最近「ソーシャルコマース」という言葉をよく見かけるようになりました。

ソーシャルコマースとは、SNSやブログなどのソーシャルメディアとECを組み合わせて販売を促進するマーケティング手法のこと。たとえば、私がTwitterで「熱海にいいホテルを見つけたよ!」とつぶやき、それを見た友人が実際にそのホテルに行く、というのもソーシャルコマースの一つと言えるでしょう。

そもそもソーシャルネットワークサービスは、人とつながることが目的のサービスです。人とつながるためには、まず自分が考えていることや興味を持っていることを明示し、それに対して他者が反応するという双方向のやり取りを、私たちは「人とつながっている」と感じています。しかし、しばしば誰も反応しないコンテンツがニュースフィールドやタイムラインを通過していきます。もちろん相手が何か興味をひかれるから、「いいね!」ボタンを押したりコメントを返したりするわけなので、反応がないコンテンツがあるのは当たり前のことなのですが、しばしば「相手の反応を期待せず、あくまで自己満足のために」何かをSNS上に公開することもあるのではないでしょうか。

これは、コンテンツを見せること(手段)がコミュニケーション(目的)を生むことを期待していない状態。自分のコンテンツを「コレクション」し、それを見せることが目的になっている。私は、消極的なSNSの活用方法として、「コレクションの展示の場」としてのSNS活用があると思っています。

たとえば

  • 私の行動をログとしてコレクションし、友達に共有する
  • 写真をアルバムにして友達と共有する(思い出を共有する、作品としてみせる)
  • 読んだ本、読みたい本をまるで本棚を見せ合うように共有する
  • 旅行を共有する
  • 自分が持っているもの、欲しいものを共有する
    • ⇒AmazonのWishList、myMuji

では、人はなぜ、インターネット上のソーシャルな場で、自らをコンテンツと化してコレクションを展示するのでしょうか。ソーシャルネットワーク上のコンテンツを、そのコンテンツ作成目的の観点で、私なりに5つに分類してみました。

  1. 自分の好きなもの・場所をお知らせすることで、興味の近い友人と盛り上がりたい
    • =人的ネットワークを活性化するための純粋な意味でのコンテンツ
  2. 自分が使ってみて/行ってみて、よかったもの/場所だからお勧めしたい
    • =自分の友人やネットワーク上の仲間に対するちょっとした親切心
  3. 自分が使ってみて/行ってみて、よかったもの/場所だから、その商品・サービス・お店を応援したい
    • =勝手なPR活動
  4. 自分が持っていること/行ったことを自慢したい
    • =モノやコトを通じて他者から認められたいという精神的渇望
  5. 自分が持っているもの/行ったもの全体を通じて、自分という人間の世界観を標榜したい
    • =モノやコトの選択の判断基準を通じて、自分という人間をわかってほしいという自己実現願望

多くの場合、一つのコンテンツは複数の目的を含んでいるためコンテンツを上記の目的できれいに分類することは不可能ですが、仮に上記の目的に「友人やネットワーク上の仲間が反応しやすい順」に順番を付けるとしたら

1>2≧3≧4>5 の順でになると思います。なぜならば、数字が若いほどコンテンツの目的が明確で、邪心(「すごいと言って欲しい」のような)がないため、友人にとっては反応してもトラップ(「余計なこと言っちゃうかも」のような)が少ないからです。

一方で、コンテンツの流通量で考えてみると、必ずしも1>2>3>4>5の順ではないように思われます。(自分も含め、私の友人のTwitterやFacebookを見ている限りは)「独り言」「自己満足」のためのコンテンツが意外と多い。要素的に、1や2が含まれていることはありますが、無意識のうちに、「自分」というものを表現し仲間に見てもらう場としてソーシャルネットワークを活用しているように見えるのです。もちろん、それに対して反応があることはありますが、決して反応を得ることを目的にコンテンツをさらしているわけではないのではないでしょうか。

そのように考えてみると、ソーシャルネットワークの中で活発に取り上げられるコンテンツを、Eコマースに結び付ければいいと安直に考えても、簡単に成功するわけではないように思えます。「ソーシャル」な「ネットワーク」といいながら、人々はかなり緩い状態でしかネットワークされていないわけですから。

とはいえ、ソーシャルネットワークをEコマースに結びつける仕組みは興味深いものがあります。個人的には、次のようなソーシャルコマースならば使ってみたいです。

  • ソーシャルネットワークから、他のECに誘導する安直なソーシャルコマースはイマイチ
  • MyMujiやMixiモールのように、ネットワーク上の人が「持っている」「ほしい」ボタンで盛り上がっていれば、それが売れるのでは?という発想もイマイチピンとこない(それならばそのサイトに閉じる必要はない)
  • もともと商品を買いたいと思っている人が集まる場で、自分のソーシャルネットワーク上の友人がその商品にどんなコメントを寄せているかが見られればいい(楽天やAmazonで、「あなたの友達の中でこの人たちがその商品を持っています」のように表示される仕組み)
  • 昔ながらの口コミサイトにソーシャルネットワークでの発言を表示する仕組み(その他大勢の人のレコメンドではなく身近な友人のレコメンドを表示数仕組み)も面白い
  • 商品のレコメンドを、プログラムで処理するのではなく、自分のソーシャルネットワーク上のコンテンツ(その商品だけでなく、もっと総合的にライフスタイルの観点から)分析して提示してくれると面白い

2012年4月2日月曜日

変革を恐れることなかれ

先週末、無事に最終出社を済ませ、送別会を開いていただきました。
幹事の方が気を利かせてくれて、職場の方だけでなく、すでに転職していた先輩方も送別会に呼んでいただいたおかげで、非常に懐かしい面々で一夜を過ごすことができました。本当に感謝です。

ところで、転職した方とお話をしていて感じたのは、先週末に私が辞めた企業だけでなく、多くの企業や日本社会全体が閉塞感につつまれているということです。そして、その原因に「変化に対する異常なまでの恐怖」があるように感じました。

製造業にしろサービス産業にしろ、過去の成功体験にしがみついていて、現実を直視できていません。市場の変化への対応速度が遅く、事業構造や戦略ドメインを変更し、今後の企業の予測図を立てスピード感を持ってしなやかに動いていくことができません。さらに、目先の利益やビジネス規模の拡大だけを追い求めて、長期的に顧客と付き合うことで、安定的に少しずつ顧客も自分たちも共に成長していくという発想がない。

このことは、総じて、
  • 視点が内向き(社内/国内)で、本来対峙すべき相手に向き合っていない
  • チャレンジを奨励する仕組み、失敗を許容する仕組みがない
  • 中長期的な視点で利益を評価するしくみになっていない
など、企業全体の「マインドの変革」が追い付いていないことが根本的な原因です。

市場がグローバル化する以前の、「追い付け、追い越せ」の時代であれば、会社が一致団結して、資源を集中的に投下し、事業を拡大していくことは正しいやり方だったのかもしれません。しかし、現在は違います。原材料の調達も、製品を生産する拠点も、人材の獲得も、販売の市場も、すべてがボーダーレスです。

もちろん、日本の企業もこれに倣い、生産拠点を移したり、海外での販売の比重を上げたりと様々な努力を重ねてきました。それは間違いなく事実です。ですが残念なことに、「変化に対する恐れ」を捨てきれず、「仕組みはグローバル、マインドはドメスティック」というねじれを起こしたまま、グローバル化の時代に突入しているといえます。

たとえば、断食の習慣のあるイスラム教徒向けに、タイマーをセットすれば冷蔵庫の庫内灯がつかないようにできる冷蔵庫を開発し、大ヒットさせた韓国企業。一方の日本の白物家電はどうなっているか。海外で安く生産する仕組みは、企業の生産現場の担当者が時間をかけて苦労に苦労を重ねて作り上げてきたことでしょう。しかし、市場をよく見ていれば、充実した機能はなくとも、本当に必要とされている機能と購入意欲を沸かせる価格があれば、新しい市場を開拓できたはずです。 これは、「つくれば売れる」「技術大国ニッポン」のマインドを変えることができなかったことによる、機会喪失の例です。
参考
グローバリゼーションの新潮流、求められるリーダーの「決断と実行」

たとえば、革新的な製品を生むことは、既存の製品を改善・改良することからのみ生まれるわけではありません。「靴下を履く感覚で履ける靴」をめざし、「パーツを縫製する」のではなく「靴全体をニットのように編む」という逆転の発想で背革新的なランニングシューズを完成させたナイキ。おそらく日本のスポーツメーカーは、いかにパーツを少なくするか、縫い目の強度を保ったまま軽量化するかという、既存製品のバージョンアップに腐心しており、ナイキの製品発表を見て驚いたに違いありません。
(ちなみに、靴を編む技術は日本の企業のものだとか。おかげで新興国に生産拠点を置かず、日本で雇用が生まれるそうです) こちらは、「いまある製品を疑うこともない」「カイゼンこそが命」というマインドが命取りになった例といえるでしょう。
参考
米国のナイキが取り戻し、ソニーが失ったもの画期的新製品「フライニット」が暗示する米国の復活(2012年3月30日)

日本人は、ずっと島国の中で、さらに言えば同じ共同体の中で繁栄してきた歴史を持っています。大陸の国のように常に他国からの侵略を恐れることなく、今あるコミュニティを維持することが比較的容易な国でした。逆に言えば、よそ者さえ排除できれば、自分たちの生活に破たんをきたすことはなかったのです。変化に柔軟に対応することよりも、今持っているものをよりよく変える。日本人が得意とする分野は、そのような分野なのかもしれません。

しかし、現状は待ったなしです。企業/社会が変革を実現していくことでしか、世界の中で生き残っていくすべはありません。そして、実は変革を促すのは個々人の力でもあります。自分の会社の中で、(経営陣やほかの事業部など自分以外の人が)提案した改革案を、自らの保身の思いから(たとえそれが無意識であったとしても)頭ごなしに否定していないか。今一度、自分に問い直す必要があります。

もう一度言います。個々人がリスクを取りながら、変革を望まない限り、どんなによい変革のためのプランが作成されても、それが組織に受容されることはありません。変革を望み、そのためにアクションし、正しい判断をしていくことが求められているのです。

リスクと向き合うのも、怖くないですよ。ご参考までに。