先日、
個人が会社を変えることはできるか?という記事を書いたところ、思いのほかたくさんの方からコメントをいただいたので少し続きを書いてみようと思います。
そもそも、前回の記事でも書きましたが、私の考えでは「個人が会社を変えることは限定的に可能」です。「限定的」というのは、次の2つのケースであればありうる、ということです。
A)自分が経営者になる
B)自分が影響の及ぼすことのできるサイズの規模の組織を作る/見つける(=大企業から離れる)
Facebookでコメントを寄せてくださった方には、どちらのタイプの方もいらっしゃいました。
自分が経営者となって、会社を変えた人。
いま、まさに、自分の権限やできることと比較して、影響を及ぼせる範囲が広すぎる組織(大企業とか)に属していてA/Bいずれの選択肢もとれず(そもそもどちらかを取らなければならないわけではないですから、選択を強要する必要はないのですが)課題に悩んでいる人。
今の組織で、A/Bいずれの選択肢もとることができず、組織を離れようとしている人。
また、コメントをいただいた方には
C)ボトムアップ的に多くの人を巻き込みながら、経営層(組織の長)に働きかける
という選択肢もありうるのではないか、というご意見もありました。
この指摘は、実現するかどうか半々、というところではないかと思います。
ポジティブにみると、意識の高い人・スキルの高い人が集まって、そこで情報を出し合い、互いに自己研鑚するという意味は多いにあると思います。もしトップマネジメントに志が高い人がいるなら(または、志が高い人が将来的にトップマネジメントに食い込むことができれば)、その人を巻き込んで、改めて改革の条件を揃えてもらうということは可能かもしれない。偉くて意識の高い人は、志があってスキルの高い若手スタッフを必要としていますから、すでにそういった人材が社内でボトムアップ的に育成されているとなれば、改革のスピードが上がるかもしれません。
ネガティブにみると、2つの点で難しいポイントがあると思います。
まず一つは、そもそも志の高いトップマネジメントがいない(将来的にも生まれる可能性が低い)可能性。特に、大企業病にかかっている場合、人材の採用や人事考課の基準自体に問題があることが多いので、トップマネジメントになる人が会社を変える人材になりうるか疑問です。Facebookでのコメントで「トップも含め『変化』を求めていない人に、変革を説いても受け入れられない」ということをポストしてくださった方がいましたが、まずは今の経営層が問題意識を持って変革を渇望し、変革を実現するための人材を抜擢するという特別な人事考課をしない限り、変革を実現する経営層が生まれる可能性は低いです。ここでキーとなるのは、「変革を渇望する」「抜擢」が、不退転の覚悟であること。ちょっと周囲に反対されたくらいで、抜擢された人の梯子を外してしまうようなことをしたら終わりです。最後まで味方をしなければなりません。
このように、もし経営層に変革の意思がない場合、仮にボトムアップ的に志の高い人・スキルの高い人が集まっても内輪のサークルどまりになる可能性が高い。
二つ目は、ボトムアップ的に変革をしていく場合、まず最初に変革の対象となるのは、変革者(変革者のグループ)が影響を及ぼすことができる組織の範囲であるということです。つまり、まず手を付けられるのは、会社全体ではなく会社の中の一部の組織になります。この場合、解決できる課題が限定的になってしまう、というのがポイントです。
そもそも、およそ「課題」というのは部門横断的なもので、自分たちの組織だけで完結して解決できる課題には限界があります。
たとえば、自分が営業の現場にいて、「顧客から納品の期日が守られないというクレームが来る」という問題が起きていたとします。その場合、営業部の中だけでその問題を解決しようとした場合、「営業が契約後のフォローを強化する」あたりが妥当な解決策でしょう。しかし、実際にクレームが劇的に減少するかというとそうではないでしょう。生産や調達など、もっと企業活動の上流工程から問題は起きているからです。需要(=営業が受注する)と供給(=生産)のミスマッチ、そもそも営業計画がおおざっぱすぎて、生産計画が立てられないから精緻な予測ができない、生産計画がころころ変わるので調達が追い付かない、など部門を超えて、課題が複合的に絡まりあっていることが、「納期遅れ」の原因になっているわけです。
問題を「根本的に」解決するためには、組織横断が欠かせないのです。ですので大企業の改革というのは難しく、よほど経営層がコミットして、トップダウンで実行していかない限り難しいわけです。
(もちろん、小さな組織で実現したことを実績として、少しずつ範囲を広げていく、というやり方もないわけではないと思いますが)
上述の2つの要素から、
C)ボトムアップ的に多くの人を巻き込みながら、経営層(組織の長)に働きかける
については、実現度合いは半々である、というのが私の考えです。
ここまでは、会社(あるいは組織)論として、どうすれば会社が変わるかという話。
ここからは、個人のキャリアとして、どうあるべきかという話です。
個人のキャリアとして考えた場合、A/B/Cいずれの選択肢を選ぼうとも、個人がどう動いて自分の外の世界に少しでも影響を及ぼすことができるかということが重要です。そもそも、会社を変えたいという思いは、自分が希望の持てる仕事をしたいという願望ではないかと思います。仕事に誇りを持っているから、その仕事の質をあげ、成果を出していきたいから、会社を変えたいと思うわけですよね。そうであるならば、理想を思い、こういう会社だったらいいなと語らっているだけでは何も変わりません。もし、会社を変えたいと思うなら、個人のキャリアを充実させることの一環として、自分の仕事にまい進するだけでなく、会社の変革に向けて実際にアクションをとっていくことが必要になるわけです。
そのためには、いかによい理想があったとしても、それを具体化し、次にどのアクションを取るべきかというレベルにまでタスクを細分化しなければなりません。誰が、いつまでに、何を、誰と決めておくのか。このタスクを実行する前提として終わらせておくタスクは何かを、しつこいくらいに、くわしく洗い出すことが大事です。
小さな一歩でも、歩みだすことが大事。自分が影響を及ぼすことができる範囲が小さくても、はじめは構わないと思います。継続していれば、少しずつ賛同者が増えることで、何かが変わるかもしれませんから。そういう意味では、上述で選択肢Cを半分だけ否定してしまいましたが、取り組むことに意義がないわけではありません。活動が実を結ぶように、経営層の巻き込みにつなげることを意識し続けることが重要だというだけです。
ちなみに、私自身は、Bの選択肢を選びました。少し充電期間をおき、小さくても自分が影響を及ぼすことができる範囲の組織を見つける/作ることをめざしています。このブログもその一歩です。
余談。
Facebookでいただいたコメントなのですが、「仮に自社が変革したとしても、顧客には受け入れられないのではないか」。
これは、変革は変革でも、少し取り扱いが異なる種類の問題です。
課題を洗い出し、その対応策を考えるときに、課題と対応策に優先順位を付けることがあります。優先順位の付け方は、いくつか視点があるのですが、その一つに「自分たちでコントロール可能か」という視点のがあります。
コントロールが難しいものの例としては「法律」「顧客企業のビジネスプロセス」などです。
たとえば、バックリベートが発生するような業態の世界について考えてみましょう。バックリベートはコントロールが難しく、自社にとってお得意さんである顧客や自社にとって優位性の高い商品ではないのに、高いバックリベートが支払われていたりすることがあります。できれば、重点顧客とそうでない顧客に軽重をつけたり、商品別の損益をわかりにくくするバックリベート方式ではなく製品価格の見直しなどの方法によって、利益を最大化したいですよね。
仮に、自社で「バックリベートを廃止して適正な値付けに一本化する」という対応策を考え、製造・営業が一体となってその問題に取り組むことにしましょう。しかし、顧客企業のビジネスプロセスはコントロールが難しいため、顧客からは引き続きバックリベートを要求されるケースがあります。
そのような場合、自社の状況によって、対応策の優先度や、対応策自体に変更を考えなければなりません。
仮に、自社が市場で高いシェアを持っており、その顧客が重要顧客ではない場合、「バックリベートを要求する顧客とは取引をしない」という判断をし、バックリベートを廃止しても適正な値付けで収益性を上げることができるでしょう。
逆に、顧客が圧倒的な購買力を持っている場合、「バックリベートを廃止しない(=バックリベートの適正な管理という対応策に変更する)」という判断が求められるわけです。
というわけで、「顧客が変革についてきてくれないのでは?」という問題は、自社でコントロールが難しいものの一つであるため、対応策自体の検討で対応できると思います。