一般に、「正直者はバカをみる」ということが信じられています。
しかし、社会心理学の分野で「正直者の方が人に騙されにくく、結果的に得をする」という研究結果が出ていることをご存知でしょうか。
この「信頼」に関する研究を長年続けてこられたのが、山岸俊男先生です。
ほぼ日刊イトイ新聞(以下「ほぼ日」と表記)で山岸先生と糸井重里氏と高校生を交えて対談を行っています。
引用元:
ほぼ日刊イトイ新聞ー「しがらみ」を「科学」してみた
この中で、糸井氏は次のように述べています。
「正直は最大の戦略である」んです。
これを実感したというできごととして、ほぼ日手帳の製造・販売の話をしています。
ほぼ日手帳を作り始めて1年目、すでに販売(当時は通販のみ)が終わった時に、製造メーカーの担当者から「手帳を毎日使っていたらバラける可能性がある」ことを聞かされた糸井氏。そこで「翌年から改善すればいいや」と思わないのが正直者の戦略。もう一冊作って、すべてのお客様に新しい手帳をもう一冊届けたそうです。
結果的に言ったら「バラけるかもしれない」と言われた初期の手帳は、問題なく使えたケースが大半だったようです。 だから、ぼくたちがあとから届けた1冊が余ってしまったので、みなさん、まわりの人にプレゼントしてくれたりしたみたいなんです。そのことが、まだ1年目だったぼくらの手帳を「売れた人数の倍の人」に、知っていただけるきっかけになったんです。
普通の企業であれば「来年からでいいや」と考えてしまうところです。しかしほぼ日は「正直は最大の戦略である」という信念のもと、利益に反することをやって、結果的にビジネスが成功した例といえます。
顧客や市場を信頼し、「正直さ」「誠実さ」を信条に腹をくくってビジネスをするというのは、簡単ではありません。相手の顔が見えれば信頼に値する相手かどうかも判断できるかもしれませんが、すべての顧客に対して信頼性を判断することは不可能です。さらに、企業と顧客、あるいは顧客同士が、ネットワークで双方向でやり取りすることができる時代です。ちょっとした悪評が、企業に大きなダメージを与えることもありえます。したがって、顧客や市場を信頼するということは、理想ではあるけれどもリスクの高い態度であると考えられるのです。
しかし私は、それでもなお、顧客や市場を信頼し、「誠実で」「正直な」態度で事業を行うことが、長期的に見て企業にとってプラスをもたらすと考えます。その根拠となるのが、山岸先生の「信頼」に関する社会心理実験です。
山岸先生はご自身の研究の中で、社会心理実験を通じて日本とアメリカを比較し、信頼と社会の関係を解き明かしています。
一般に「日本は安全で安心な国」であり「アメリカは個人主義でハイリスク・ハイリターンの国」と信じられていますが、山岸先生の説を簡単に説明すると、日本は
- 安心な関係性の中で暮らしていける
- ⇒安心な関係性を守るためによそ者を共同体に入れない(ムラ社会)
- ⇒閉じた関係性の中でのみ取引をする
- もしかしたらもっとよい取引条件が外の世界にあるかもしれないのに、高いコストを払って閉じた関係性の中で取引をする
- 「だれを信頼するか/誰を疑うか」というスキルが磨かれない
- ⇒騙されないように安心な信頼関係の中でしか人間関係を作らない
- ⇒騙されないように安心な信頼関係の中でしか人間関係を作らない
- もしかしたらもっとよい取引条件が外の世界にあるかもしれないのに、高いコストを払って閉じた関係性の中で取引をする
- ⇒閉じた関係性の中でのみ取引をする
- ⇒安心な関係性を守るためによそ者を共同体に入れない(ムラ社会)
- 共同体が開かれていて
- 広いネットワークの中で取引をする国であり
- 失敗してもまたチャレンジすればいい、というスタンス
山岸先生の研究の通りであれば、私たちは高リスクでリターンの望みが薄い社会の中で、息苦しい思いをしながら生きていることになります。これを逃れるすべはないのか?
山岸先生は著作の中で社会の仕組みを変革する必要を説いていますが、私はそれに加えて、企業側の姿勢も変わるべきだと考えています。つまり、企業が自ら「誠実で」「正直な」態度で事業を行うことが必要だということです。さらに踏み込んで言えば、個人のレベルでリスクと向き合いながら他者を信頼し、社会と関わっていく人が増えていけば、日本の息苦しさを押し下げることができるかもしれません。
「先ず隗より始めよ」。「誠実で」「正直な」新しいビジネスを自分が実現することで、息苦しい社会にひとそよぎの風を送り込む。それが私の目標です。
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