2012年3月23日金曜日

スマートTVアプリって本当に必要なの?

日経新聞電子版で、元グーグル日本法人社長兼米本社副社長の村上憲郎氏が、スマートTVアプリの理想型として、次の3つのタイプを挙げていました。(注:原文は文章で3つのポイントがあげられていたが、見やすくするため文章から箇条書きに書き直した。)

視聴者は「わがまま」、スマートTV時代 アプリが縦横無尽な視聴を支える(2012/3/6)

  • シナリオ完結型
      例えば、「ローマの休日」を軸にした場合を想定してみよう。映画の進行を追いながら、適宜、ヘップバーンとグレゴリー・ペックという2人の俳優に関するコンテンツ、ウイリアム・ワイラー監督に関するコンテンツ、舞台となったローマに関するコンテンツ、などなどが、断片コンテンツとして予め決められた順序・長さによって提示される。
  • 質問応答型
      「シナリオ完結型」のいかなる所でも、視聴者が割り込んで質問ができ、それに答える様々なコンテンツが提示される。
  • SNS連携型
      さらにその上に、蓄積されたレコメンデーション(お薦めデータ)に基づいて、提示するコンテンツが徐々に変更して提示される。タイムライン(時系列)としてコメントが流れ、それに反応して、提示コンテンツが劇的に変わることもある。


  • 分類としてはとてもわかりやすい分類です。しかし、スマートTVアプリは本当に必要なのでしょうか?

    質問応答型はかなり成立しうる路線でしょう。しかし、現状でも番組にFAXやE-mail、Twitterを連動させる番組はいくつもありますし、デジタル対応テレビであればデータ放送で双方向のやり取りができます。あえてスマートTVと銘打って、テレビとアプリを融合させる必要性はありません。

    SNS連携型は、テレビ局などの既存のマスメディアより新興のコンテンツ配信事業者の方が向いているのは言うまでもありません。

    日本に上陸した緑の黒船「Hulu」の“真価”(2011/9/8)
    何でも、最初は友だちに勧められたドラマを1つ、試しにフルで見てみた。すると「この番組を見た人は、他にこんなものを見ています」というオススメが表示される。リンクをクリックするだけで無料ですぐに見られるので、気軽にお試しできる。それを次々と見ていくうちに、いくつかが気に入り、続けて見るようになった。

    Huluなどのサービスでは、FacebookやTwitterなど既存のソーシャルメディアをフル活用しています。それも、リビングにあるテレビではなくパソコンやiPad、iPhoneなどのモバイルデバイスで見ることが既定路線だから相性がいいのです。見終わったら、次のタイトルへのクリックへのリンクとともに「いいね!」ボタンが表示される。逆に、友達のFacebookのウォールやタイムラインを見ていると、友達がお勧めしているコンテンツへのリンクがあり、そこからすぐにコンテンツにアクセスできる。

    これがテレビの場合、そうはいきません。テレビに「いいね!」ボタンがあっても、テレビと「いいね!」ボタンをいったりきたりすることになっていまい、視聴者の集中を損ねてしまいます。テレビの大画面でFacebookを見るのは意外とつらいので、Facebookからコンテンツへの導線は見込めません。
    とはいえ、日テレなどは、Facebookと番組の連動を試みているようです。どんなものになるのか、楽しみであります。

    日テレ、Facebookとテレビを融合させた新視聴体験「JoiNTV」実証実験へ

    さて、最後になりましたが、シナリオ完結型。これについてはテレビはこれまでにもかなり取り組んできています。番組のグッズ化、映画化、スピンオフストーリー、番組から派生した歌手など。成功したビジネスモデルだけに、スマートTVアプリにした場合に、さらにその効果をアップできるのかが気になります。

    その場合の問題はやはり動線です。コンテンツの視聴を中断させることなく(視聴者の興味を引きつけたまま)いかに、周辺消費に結びつけるか、その動線をどう設計するかにかかっているといえます。もともと消費者がそのコンテンツを溺愛している場合はよいのです。すでに消費者との間で、強い結びつきができていて、企業がそれほど手をかけなくても、少し便利なポータル(コンテンツとその周辺消費への入り口を一箇所にまとめたもの。例えば、番組オフィシャルサイトなど)を設ければ、消費者は自分からそれを探し求め、周辺消費に行き着くからです。問題は、AIDMAでいうところのAIで終わっている消費者をどう取り込むかです。

    注:AIDMAとは、広告宣伝に対する消費者の心理のプロセスを示した略語。A:Attention(注意)、I:Interest(関心)、D:Desire(欲求)、M:Memory(記憶)、A:Action(行動)

    どんなにプロモーションをしても周知される範囲に限度があるのは、これまでの取り組みで十分わかっています。結局は、コンテンツの質を上げて、視聴者にコンテンツを好きになってもらうしかないでしょう。
    しかし、さまざまな手法がやり尽くされた感があるのは周知の事実で、これ以上質を高めることなど困難です。ではどうするのか。

    一つは、一コンテンツあたりの制作コストを下げ、受け入れられる消費者の数が少なくても収益があげられるような構造に変えること。そして二つ目は、大多数に受け入れられるコンセプト作りを諦め、大胆な顧客の絞り込みをすることです。顧客層が断片化している(顧客のセグメントが小さくなっている)時代にあって、マスを相手にミリオンヒットを目指すのは危険です。狙うべき顧客を絞り込み、その人たちにだけ熱狂的に受け入れられるコンテンツを作る。そうすれば、プロモーションで無駄な弾をうたなくても、導線の設計に悩まなくてもいいわけです。

    一つ一つ検証してきましたが、スマートTVアプリで収益を最大化するのは小手先の手段です。
    テレビにとってのライバルは、他のテレビ局ではなく、無料動画サイトや有料コンテンツ配信事業者、ソーシャルメディアを含むインターネットそのものです。スマートTVアプリなどという小手先の手段は通用しません。過去の成功体験を捨て、顧客層が断片化しているという今の状況を真摯に受け止め、それに合ったビジネスモデルにシフトすることを考えるべきではないでしょうか。

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